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執筆記事
●現在の「カフェ」ブームとは何か
〜執筆者:入江直之〜

21世紀最初の年、2001年の飲食業界を振り返ったとき、「カフェ」は、時代を象徴する、外すことのできないキーワードのひとつとして将来の業界年表に刻まれることだろう。
そもそも、「カフェ」とはフランスで有名な街角の飲食店のことであり、その利用のされ方は日本の喫茶店に近いものだ。一人あるいは少数の人間が、コーヒーを飲みながら会話を楽しんだり、商談を行ったり、本を読んだり、軽い食事を摂ったりといったために利用する飲食店で、その多くはオープンテラスの形式で、テーブル会計を行うスタイルで営業している。パリには、サンジェルマン・デ・プレの中心にある「ドゥ・マゴ」など老舗のカフェが数多くあり、文化人達の溜まり場としても知られている。
しかし、現在、東京などを中心に流行している「カフェ」と呼ばれる一連の店舗は、こうした本場フランスのカフェとは少しばかり異なった経緯で生まれた飲食店のグループであると言えるだろう。
わが国の外食トレンドの中で欠かすことのできないカテゴリーのひとつに「喫茶店」がある。今でこそ、「喫茶店」というのは、どちらかと言えば流行遅れの、少数派の飲食店グループになってしまった感があるが、バブル期までは、飲食業界の中心的なカテゴリーのひとつとして日本中に存在していた。 こうした喫茶店は、パリのカフェと同じように、「コーヒーを提供する」というサービスをベースに、人々の休憩や語らい、出会いなどの舞台として、飲酒を中心としたもうひとつのカテゴリー「居酒屋」と共に隆盛を誇っていたが、この喫茶店には、決定的な経営上のウィークポイントがあった。
それは「生産性の低さ」である。もともと喫茶店とは「コーヒーなどのドリンク商品を中心に扱うことで、低い原価率を維持し、専門の調理人を必要としないために人件費も抑えられる」というFL費率の低いビジネスとして成立しており、これが店舗面積当たりの売上高が比較的低くても成り立つ飲食店として、素人起業家や異業種企業の参入をも容易にして成長してきたという経緯があった。しかし、こうした特徴がバブル期の不動産価格高騰によって裏目に出ることとなった。
1980年代の後半以降、高騰した地価にともなって日本中の古い建物が取り壊され、家賃相場が大幅に上昇した時期に、それまで細々と営業を続けてきた「喫茶店」の大多数は、都心部の有力店などを除いて、その姿を消した。代わって、1970年代からチェーン展開を続けてきたファストフード業態を中心とする生産性の高い外食チェーンが路面店舗に急激に進出し、また首都圏などでは1980年から展開を始めたドトールコーヒーのような売上坪効率の良い喫茶チェーンがフランチャイズ組織で既存の小規模な喫茶店に取って代わったのである。
やがて、バブル崩壊を迎えた1990年代初頭、家賃の下落傾向を踏まえて外食チェーンの出店はさらに加速していたが、そうした中で、それまでレストラン経営を主体としてきた「ひらまつ」が1993年、広尾に「カフェ・デュ・プレ」というフランスのカフェそのままのスタイルで営業する店舗を出店、1994年に表参道店(現在は閉店)をオープンしたことで人気に火がつき、連日超満員の繁盛店となった。さらに1995年には、恵比寿でイタリアン業態の「イル・ボッカローネ」「ラ・ビスボッチャ」と立て続けにヒットを飛ばしていた「オライアン」が、原宿の竹下通りに「オー・バカナル」という「カフェ+ベーカリー+ブラッスリー」の大型店舗を出店、明治通りの路面に面したオープンカフェは話題を呼び、その人気は現在でも続いている。そして1996年には「スターバックスコーヒー」の銀座1号店が開店した。その後の「スタバ」の急激な展開については、説明の必要もないだろう。
現在のカフェブームの下地は、およそ、この時期に作り上げられたと言って間違いないと言える。

しかし、現在の「カフェ」の大流行の直接のきっかけとなったのは、1997年に東京世田谷区の駒沢公園の近くに出現した「バワリー・キッチン」という飲食店である。この小さな店に、いつしかお客が行列をつくるようになったときから、現在のカフェブームへと続くトレンドの流れが始まったのだと言っても過言ではない。
多くの外食業界人が、そうした現象に気にも留めないうちに、「カフェ」は都市部を中心としてジワジワと広がり、97年の暮れには東京青山の表参道近くに「ニューズ・デリ」の1号店が開店、1998年には東京渋谷に「デザート・カンパニー」が開店して、単なる喫茶店ではなく「カフェごはん」という言葉に象徴される「フードを重視したカフェ」という現在の流れのひとつが出来上がった。
また、1999年、東京恵比寿のビル9階にオープンした「ヌフ・カフェ」は、店内に中古の家具を配するなど、「癒し系」という時代のキーワードをそのまま体現したかのような、経営者や従業員の生活感覚溢れる飲食店として話題を呼び、その後開業する多くのカフェに影響を与えたと言える。
そしてミレニアムに湧いた2001年には、「カフェ」と呼ばれる飲食店が、首都圏のみならず全国各地に雨後の竹の子のごとく現われ、さすがにこうした現象を無視できなくなった業界メディアによって、「カフェ」の名を冠した業界誌がいくつか創刊されるまでになったことは周知の通りだ。


では、なぜいま、こうした「カフェ」が圧倒的に顧客の支持を受けているのだろうか。
現在、「カフェ」と呼ばれている一連の店の出店立地や商品構成、価格帯、営業時間などを比べてみれば、すべてがバラバラであり、いわゆる「業態」としての共通項は存在しないことに気づく。つまり、「カフェ」とは業態の呼称ではないのである。
現在の「カフェ」とは、どこを切っても金太郎アメのような、人間味を感じさせない多くの外食チェーンに暗黙の不満を持つお客たちが望む「好ましい飲食店のイメージ」を総称したものであり、それは決して「業態」のように機能面から定義されたものではない。
いわば「カフェ現象」とでも言うべきものなのだ。そうして、こうした「カフェ」における唯一の共通項は「その店を作り上げている人々(=スタッフ、経営者)の顔が見える」店であるという点だ。
こうした多くの「カフェ」に入店すると、どの店のスタッフも、自分の店に自信と誇りを持っていることがありありと感じられる。さらに、先に述べた独立系カフェでは、良くも悪くもオーナー自身の「人となり」すらハッキリと見えている。「カフェ」には、多くの既存チェーンが、店舗の「標準化」を行うという名目のもとに実質的に切り捨ててきた「人間」の存在感に満ちているのである。そして恐らく、その「人間くささ」こそが、閉塞感あふれる現代の日本人に強烈にアピールしているのであろう。
現在の「カフェ」ブームの中で、われわれはもう一度、飲食店とはどうあるべきなのか、お客と、そこで働く人々に、飲食店は何を提供しなければならないのかを見つめ直す必要があると言えるのかも知れない。 現在、巷でカフェと呼ばれている飲食店とは、大きく分類すると【表1】のようになる。

【表1】
チェーン系カフェ
「スターバックスコーヒー」を筆頭に、従来の喫茶店やドトールなどのような低価格コーヒー店とは異なる顧客ニーズを狙い、250円以上という新しい価格帯を生み出した。スターバックスの成功で、既存チェーン各社も同様の業態を立ち上げて参入している他、「セガフレード・ザネッティ」「タリーズ・コーヒー」など、海外チェーンの輸入も盛んだ。

デザイナー・プロデューサー系カフェ
「バワリー・キッチン」や「ロータス」、「ワイアード・ダイナー」等に代表されるデザイナー・プロデューサー主導のカフェ。現在の「カフェ」ブームの起爆剤となった店が多い。 異業種企業参入カフェ
「カフェ・コムサ」「ロイス・カフェ」といったアパレル系企業の経営するカフェを中心にした異業種参入組のカフェ。「カフェ・コムサ」は1号店出店が1996年と、比較的早い時期に参入しているが98年の5号店までは現在のスタイルではない。

専門店カフェ
「ニューズ・デリ」「デザート・カンパニー」のように、デリ惣菜やデザートなど、特定の商品カテゴリーに特化した専門店スタイルのカフェ。

独立系カフェ
「ニド・カフェ」「フロア」「ノン」「七面鳥カフェ」のような個人オーナーが経営するカフェ。独立系カフェ、東京カフェなどと呼ばれることが多い。



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